銀杏BOYZについて語る座談会 [峯田和伸 x 村井守 x 磯部涼 x 九龍ジョー]

構成:小田部仁
写真:村井香

磯部 村井君は、新曲をどう聴いたんですか?

村井 「自分と向き合ってるなー」って思いました。俺、全然向き合わないから。

峯田 どこかメンバー抜けちゃったとか、俺の責任みたいなところがあるから。そういう個人的なものもあるけれど。みんな普通にSNSとかLINEとかで、彼女とか奥さんがいるのに脇でいじってさ。秘密を生みやすくなったじゃん? 麻痺しているとはいえ、誰かや何かに対してゴメンなさいみたいな気持ちはどこかにあるんじゃないかって俺は思っていて。その気持ちを否定するんじゃなくて、抱えたままでもいいんじゃないかって。

九龍 でも、かつての峯田和伸は「お前、全部さらけ出せよ」って人だったわけですよね?

磯部 それこそ、かつては峯田くん自身もプライベートを曝け出してたしね。

峯田 「僕たちは世界を変えることができない」っていうタイトルで、ドキュメントの映像作品を作った時から「世界との戦いだ」っていう意識はなくて。抱える罪はみんなに等しくあると。オール肯定じゃないけど、全部正義とか悪なんてありえない。曖昧なところに何かがある。そこは肯定したいと思うんだよね。

九龍 今回、特に映像でいいなって思ったのは、バンドでの演奏が終わった後に入っているシーンで、峯田君が自宅で一人、トイレやシャワーにいるっていう。そこに孤独に感じるって言えばそうなんだけど、あまり寂しい感じでもなくて。峯田君の今の心象風景みたいなものがよく出てるなって思ったんだよね。

村井 それは俺も思った。「そんなもんだよ」って感じがしましたけどね。

峯田 お客さんはどっかでね。「峯田、寂しい奴だな」って思うのは当たり前なんだけど、でも別に本人はそうでもない。

村井 トイレして、うんこして流すくらいのもんだよって。

九龍 ステージを降りたら、一人の人間の生活なんだなってそれくらいに思えたのはとても良かった。

磯部 そうか。俺、「生きたい」に関しては、「肯定する」ようなイメージは感じなくて。
「罰しなければ」ってフレーズが耳に残るのもあって、「光」からさらに追い詰められたような印象を受けたけど。むしろ、「ぽあだむ」の方が抜けてるっていうか、その次のステージだと思った。だから、さっき話を聞いていて、「生きたい」は始めるのではなく、終わらせる曲≠チていうのは「なるほど」なと。

峯田 次に新しいアルバムを作るとして、広い目で見ると「業の肯定」に見えるんだけど、新しい曲に関してだけで見るとまず自分を断罪する。で、終わりではあるんだけど、今まで自分が抱えてきたものをこの曲で丸ごと捨て去る。

磯部 心にいろいろなものを抱えながらも、乗っている電車は進んでいくわけだから、そういう意味では次を予感させるような曲なのかもしれないですけどね。

村井 長いじゃないですか、曲。でも、ピアノのバックだけでちゃんと聴いてられるんですよね。長い曲ってだいたい途中で飛ばすでしょ? 僕は曲に意味とか求めないんで。長いけれど、ちゃんと聴けるんですよね。

峯田 ……音楽を20年やってきたとはとても思えない。作り手として、やっぱやめてよかったよ、お前。批評性がない。

磯部 (笑)。「生きたい」があれだけ重い曲調であれだけ引っ張れるのは、やっぱり、歌詞にちゃんと文章としての魅力があるからだと思ったな。

九龍 俺、新しい銀杏BOYZは、バンドもいいんだけど、何度かライヴを見た峯田君の弾き語りスタイルも面白いと思ったんだよね。

峯田 これからツアーやるときには15曲ないし、20曲するとしても、前半バンドで始まって5〜6曲やったら、メンバーが捌けてアコギでやるってのもいいかなって思ってる。で、最後はまたバンドみたいな一連の流れ。ここ1年半ぐらい一人でアコギでやってて。それで空気を支配するっていうのも面白いなって思ってる。

磯部 あと、「生きたい」を聴いて感じたのは、さっきの村井くんの話じゃないですけど、元メンバーはバンドを辞めて、今はまた別の人生を歩いてるわけじゃないですか。で、この曲を単純に峯田君の人生の経過報告として聞くんだとしたら、「このひとはずっと以前の銀杏の延長線上で生きてるんだな」って。

村井 峯田が、銀杏BOYZと別の方向いくってちょっと考えらんないすけどね。そういう道もあるかもしれないですけど。

峯田 いや、でも、俺はあるよ。ドラマに出るとか……。10年間を否定はしないけど違うとこ行こうっていうのはあるよ。やりきったから。

九龍 さっきも言ったけど、それはすごくあるな。「峯田和伸」と「銀杏BOYZの峯田和伸」とが、ちょっと分離してきている。そして、逆に割り切って、音楽の中で「銀杏BOYZ」をやろうとしている。そういうモードを感じた。

磯部 ただ、それが出てくるのは次の曲なのかもしれないですよね。「生きたい」に関しては、今までのコンテクストの延長線上にある。もしかしたら、その先はデッドエンドに続いているのかもしれないし、あるいは次のステージがあるのかもしれない。……ところで、峯田くんは今、幸せなんですか?

峯田 今ですか、いい感じです。

磯部 「幸せになりたいよ」ってリフレインが曲中にありますけど。

峯田 これは僕の体験じゃないんですけど、ある人が、出会い系で女と会って……ホテル行って散々ヤって。その日、2012年のアジアカップサッカーの決勝の日だったんですって。で、日本が優勝決めて。それを二人で観てからまたヤッて。ラブホテルって時計も何もないじゃないですか? 何時かもわからないそんな空間の中で、その女の子が急に「私って幸せになれるかな?」って聞いてきたらしいんですよ。その話を聞いて、それってすごく音楽的だなって思って。

九龍 時間を失った瞬間、ふと未来を思ったんだ。

磯部 なるほど。自分の話じゃないんだ? それは確かに今までとは違う歌詞の書き方ですね。

九龍 これまでよりも歌詞にカメラアイっていうか、客観視する目線があるよね。だから、かつて以上によりその世界にディープに没入しても大丈夫っていう。前はそれやると、生活から何から破綻する人生だったんだろうけど、今はもう一枚底がある。銀杏BOYZという方法を改めて選びなおしたっていう感じがしたな。

村井 前から客観的なところはあったよね。

峯田 まあね。意識的になったのは最近だけど。もっと意識的に。

磯部 このDVDに記録されている、暴走列車みたいな銀杏BOYZから脱出したのは、辞めた三人だけじゃないのかもしれないですね。峯田くんもまたそこから飛び降りた。つまり、今の銀杏っていうのは同じようで、全然違うものとしてあるのかもしれない。

峯田 これから結婚とかして、自分に子供が生まれたらどういう曲とか書くのかなって、すごく興味ありますけどね。曽我部(恵一)さんみたいになるのか。また違う風になるのか。わかんないけど。今はとりあえず、中野区に住んでる俺の一人暮らしの中からしか出てこない。もしかしたら取材とかしてみて「これ歌詞にすっか」みたいなのもいいのかもしれない。でも、やっぱり自分の暮らしの中から出てくるものって当てになるからなぁ。メールがそのまま歌詞になったりするからね。

九龍 峯田くんの場合、そういう歌の種みたいなものは尽きなそうだよね。ただ、それをどうアウトプットするかは変わっていくのかもね。歌舞伎とか見ていると、もともとは衝動とか、偶然だったものが、様式化したのがわかるんだよね。そんなふうに銀杏BOYZが型になってしまうのも困るし。年をとった峯田和伸がマイク噛んで、「待ってました!」ってなったりしたら、ちょっとね……(笑)。

峯田 うーん、芸にしたくはないっていう感じですよね。過渡期のままにしたいっていうか。「峯田は、これやらないとなー」っていうのにあんまり乗りたくない。芸にしたら楽な部分いっぱいあるから。

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